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読み物

古書、人との一期一会求めて

「古書、人との一期一会求めて」
阿武隈書房代表 有賀 史人さん(勿来町)

商店が立ち並ぶ平字五町目の一角、笹竜胆(ささりんどう)の家紋が掲げられた白壁の元紋屋に、雑本から史資料、近代文学まで古今東西を旅してきたさまざまな古書を取り扱う古本屋「阿武隈書房」がある。代表の有賀史人さん(44)=勿来町在住=は宮城県名取市出身。もともと、福島は縁もゆかりもない土地だったが、筑波大で民俗学を学ぶ道すがら、ふとした寄り道がいわきとの縁を取り持った。古書から生まれた出会いは、本市の文化活動の一端を下支えしている。

教員の父は考古学、叔父と祖父は郷土史に造けいが深く、有賀さんは幼いとき、実家の本棚にずらり並ぶ発掘調査報告書や自治体史をめくっては絵本の代わりにした。
自分で初めて買った本は、歴史専門雑誌。どっぷり浸かり、やがて民俗学を学ぶため筑波大に進む。在学中に車の免許合宿でいわきを訪れた際、暇を持て余して偶然立ち寄った先が、シャプラニールいわき連絡会代表の吉田まさ子さん(78)が営む古田部米穀店だった。
夫で、後にいわき地域学會代表幹事となる隆治さん(73)とも意気投合し、話題は世間話から民俗学へ。故人を供養する郷土芸能じゃんがら念仏踊りを知り、「民俗芸能研究は当時、学問的に〝隙〟があった」と卒論の題材にすることを決意。ここから、いわきとの縁が始まった。
大学院中退後は着の身着のまま、住処を点々。豊富な民俗学の知識を生かして〝本の聖地〟神田神保町の古本街で働き、古書売買、流通のノウハウを吸収していった。この間、吉田夫妻や民俗学に精通するいわきの研究者との交流も深まった。
古本を商売にすることを決め、収集した古書をインターネットで販売。平成22年にはいま実店舗を置く元紋屋を借り、在庫倉庫にした。翌年、東日本大震災。「災害に立ち向かうにはお金が必要」との思いを強くし、商売に本腰を入れた。
昨年11月には、ふるさと宮城に2号店(仙台市)を出店。一方、民俗学を志し郷土史などにも足を深く踏み込んだ使命感から、〝発掘〟した価値ある古書や史資料を市内の教育文化施設に紹介する活動も続けている。有賀さんが紹介した史資料から企画展に発展した例も少なくない。
古書で生活と心に彩りを加える――。有賀さんは今日も古書、人との一期一会を求めて車を走らせ、店頭に立ち続ける。

 

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