「参加することに意義がある」―誰もが知っている五輪精神を謳ったもので、近代五輪の父と言われた、クーベルタンの言葉だ▼この言葉の背景には、深刻なアメリカとイギリスの対立がある。1908年、第4回ロンドン五輪の際、その対立を憂い、ロンドンの教会のミサでの司教のメッセージが基になっている。邪念を捨てて、己の持つ力の全てを出し切れというもの。つまり、勝ち負けではなく、どれだけ納得いく戦いができたかということ。SPで出遅れ、メダルが絶望視される中、フリーで見事な演技を見せた浅田選手が、まさにそれだ▼一方で、勝利至上主義が先行している面もある。メダルのために有力選手を帰化させる。あるいは、報奨金を出す。過熱する報道にも問題があるが、どうやら、選手を取り巻く周辺に問題があるようだ▼金メダルだけが感動を与えるものではない。真の五輪精神があれば順位は関係ない。その選手は誰よりも輝いて見えるし、美しい。
片隅抄