知人の母のお通夜。香典返しと一緒に1枚の手紙が入っていた。母が料理人として修業の日々を送る息子にしたためたものだった。温かくわが子を包み込むような手紙を読み進めるうち、一文に目が留まった。「親が生きているうちに喜んでもらうということを時々は思い出してください」▼成長のスピードに驚かされる息子の姿に、幼少のころの自分を重ねた。感情が芽生え、言葉を覚え、親子としての関係性を築き上げていく日々。大変なことも多いけれど、わが子の笑顔は何物にも替えがたい喜びだ。そんな時が自分にもあったのだろう。手紙を読みあらためて親が傾けてくれた愛情の深さを実感した▼幼児虐待の痛ましい事件が連日のように飛び込んでくる。出産を経験し、命の重さを知る親による愚行。なぜ、どうしてという思いが怒りから悲しみに変わる▼自立できない親が悲劇を引き起こすのか。核家族化が進む一方で、親が自らの親に学ぶ必要性を感じる。
片隅抄