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片隅抄

2011.02.21

 第144回芥川賞受賞作のうち、中卒で逮捕歴もある西村賢太氏の『苦役列車』を読んだ。現代社会の底辺を生きる若者を描いた私小説だが、気に留まったのはタイトルだ▼苦役〝彷徨〟でも〝飛行〟でもなく〝列車〟であるところに、主人公の生きる力すなわち主体性は見えず、代わりに〝ままならぬ世の中〟がにじみ出ていると思えた。列車は、自分の足で歩を進めるのと違い、敷かれた線路の上を走り続けるしかない。「そうであっても生きるのが人」、そんなメッセージがあるのか▼しかしながら昨今の鉄道ブームもあり〝列車〟と聞けば、『線路は続くよどこまでも』の童謡にあるような明るく楽しい鉄道の旅のイメージの方が強い。ところが、この歌について調べると面白いことが分かった▼その原曲はアメリカ民謡で、歌詞は鉄道建設工事の過酷な労働を歌ったもので、最初に歌い出したのは当の工夫たちとのこと。『苦役列車』に重なる情景が思い浮かんだ。

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