本屋さんで、作家の森沢明夫さんが書いた『渚の旅人・かもめの熱い吐息』(幻冬舎文庫)という本を見つけた▼森沢さんは雑誌の連載で、2003年から7年をかけて本州を一周した。その旅の始まりとなるのがいわき市を含む福島県浜通りだった。本書では岩手県や宮城県も紹介され、震災前の被災地の様子がわかる▼波立海岸では玉砂利にまつわる伝説を知った。薄磯海岸ではウミネコとカモメの違いを学び、小名浜港の市場では初めてメヒカリを見る。そこには震災前ののんびりした浜辺の町の様子が描かれていた。酒井英治さん空撮のDVD『かもめの視線』でも、青い海に広い砂浜が広がり、灯台が立ち、岬が突き出し、ところどころに漁港と民家が点在する美しい海岸線が記録されている▼潮の香ただよう見慣れた風景が、実は貴重な海辺の町の原風景を今に伝えていたのだということをあらためて知った。ふるさといわきの美しい海岸線が復活する日を待とう。
片隅抄