万葉集は奈良時代に編まれた日本最古の歌集で、さまざまな身分の人々が詠んだ4500首以上からなる。そして今『3・11万葉集・詠み人知らずたちの大震災』という本を手にした。3月にNHK総合で放映されたドキュメンタリーを書籍化したものだ▼著者は、番組のディレクター。震災の日から、その心のうちを三十一文字で表現してきた岩手・宮城・福島のさまざまな人々への取材記録だ。目の前で津波によって夫を失った女性、原発事故で避難し帰郷できぬまま他界した歌人などの姿が描かれている▼中に、東日本国際大附属昌平高文芸部の項がある。部員には、楢葉町出身者や、避難で一時期いわきを離れた生徒もいる。その1人の言葉が胸にしみた▼「『あの頃』と言えるようになったことを幸せだと思える。あの頃の苦しかった気持ちを押し殺したりせずに受け入れて、前を向ける気がしている」―明日は11日、私たちそれぞれにも3年8カ月の時が流れた。