最近、100歳を迎えたお年寄りの記事が多い。一昔前は明治生まれだったが、今年は大正4年に誕生されている。長寿の秘訣は「くよくよしない」「なんでも食べる」という▼そこに「肉を好む」が追記されるようになった。高齢者の食生活は、脂ものより野菜類というイメージだが、粗食による低栄養もいけないそうだ。「夏は肉を食わなければ体がもたない」「今朝はステーキ丼を食す」と記した作家池波正太郎さん▼今年で没後25年。今月3日が命日だった。数日前、夜中に目が覚め入手した『梅安冬時雨』を読み始めた。江戸の暗黒街で生きる人物の機微と情緒漂う文体にあらためて引き込まれるうち、白々と夜が明けていった▼物語も佳境に近づくころ、突然「絶筆」の2文字。執筆時は相当体調を崩していたころである。「生まれた時から死に向かっている」との死生観を持ち、一日一時を大切にした。だからこそ食にまつわるエッセーにも飽きがこない。