映画監督の大林宣彦さんが亡くなった。少し前、余命宣告を受けながらも、製作に打ち込む姿がテレビで伝えられた。こちらは熱心な大林ファンではないが昔、薬師丸ひろ子さん主演「ねらわれた学園」は映画館で見ている▼数多く手掛けた作品のひとつに、シナリオライター山田太一さん原作『異人たちとの夏』がある。日々の暮らしに疲れた男がふとしたことから、少年期にタイムスリップ。早くに死に別れた両親と再開、わずかなひとときを過ごす▼東京・浅草を舞台にノスタルジー漂うが、現実で起きた女性の自死が絡み合うなどホラー的要素も含む作品である。大林ワールドの白眉は、この主人公と亡霊と化した女性の異様な交わりを特殊撮影で表現している▼新型コロナウイルス感染拡大に伴う一連の動きには、気が滅入(めい)ることばかり。視覚、聴覚から精神を刺激し、一時でも嫌なことを忘れたい気分にもなる。この閉そく感は人心にどう影響していくのだろうか。
片隅抄