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片隅抄

2020.6.17

木下道雄さんは明治20年、東京生まれ。父親は京都大の初代総長で、木下さんも東大法学部を卒業し、岡山県警のキャリア警察官となった▼そのあと5カ月間だけ県内の郡長を務め、内閣総理大臣から大正天皇への文書を作成する内閣書記官を経て、大正13年に東宮事務官兼東宮(後の昭和天皇)侍従として宮中へ入った▼内閣書記官時代にこんなエピソードがある。大正天皇の行幸に随行した際、皇后さまから慰労の菓子折りを賜った。開けてみると見たことのない立派なお菓子が入っていた。そのとき木下さんは、新米の郡長として訪れた、村人の心も荒(すさ)むようなある貧しい集落を思い出した。木下さんは、後を託した信頼する郡内の若者にその菓子折りを届けさせた。村人たちは「皇后さまのお菓子」と感激し、荒れた村の改善に立ち上がったという▼そんな人が戸渡のヤマユリ分校と皇居の「縁」を取り持ってくれたことを覚えておきたい。欠かせないキーパーソンだった。

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