アカデミー賞授賞式で司会者が発した言葉に激怒、平手打ちを見舞った俳優ウィル・スミス氏。華やかな映画の祭典を殺伐とした雰囲気にした▼発言内容は、女優でもある妻が脱毛症のため短髪にしている姿を揶揄したものだった。これを受け、当意即妙のジョークで切り返すと思いきや、スミス氏には冗談では済まされなかったようだ▼似たような場面を昔、見た。いずれも故人の野坂昭如、大島渚両氏のステージトラブル。大島氏のパーティーに出席した野坂氏がわずかなスピーチ後、いきなり大島氏を殴りつけた。壇上は騒然となったが、2人の関係を知ると文壇と映画人の酒場のたわいない喧嘩に思えた▼作家伊集院静さんが『大人の流儀』に記す「不幸の底にある者と幸福の絶頂にある者とが隣り合わせて路上に立つことが日常おこる。だから大人はハシャグナというのだ」。暴力は肯定できないが、他者を思いやる気持ちがあれば避けられた一件だった。