往年の名投手村田兆治さんが、きょう未明に不慮の事故で亡くなった。野球は詳しくないが、豪快なマサカリ投法で活躍した姿は知っている▼もっとも、その名前からは、山口瞳さん原作『居酒屋兆治』のイメージが強い。山口さんが住んだ東京都国立市界隈に実際に営業していたモツ焼き屋「文蔵」をモデルに常連客らの会話などから、小説のストーリーを練り上げたといわれる▼昔、高校野球の投手だったが肩を痛め、断念した過去がある。電機メーカーに就職するも、人員整理の役職が嫌になり店を開いた。のちに映画、テレビドラマ化され、店主の藤野伝吉役には高倉健、渡辺謙、遠藤賢一さんが演じている▼小説では「兆治っていう名前が好きなんですよ。それだけです。特別な意味はありません」と客とのやりとりがある。虚と実の世界が交差するが、かつて「文蔵」の店主にモツ焼きを手ほどきした人は、福島県出身者で詩人草野心平がよく通った店の主という。
片隅抄