日ごろからの整理整頓がなっておらず、いざという時に肝心な文庫が見つからなかった。先日亡くなった粟津則雄さんのことで確認を試みたが徒労に終わった▼初代の市立草野心平記念文学館長を務めたこと以前に、フランス文学を主体にしたその業績を浅学のこちらが論じることは、あまりに恐れ多い。生前の粟津さんには、酒席で数回お会いしているが、親しく会話したことはない▼同業他社の人が酔いにまかせ、ランボーに関することで論戦を挑んだらしいが、コテンパンにやられたと伝え聞いた。畏怖の念を抱きながらも、一度質問したことがあった。探し物の『講談社文芸文庫吉田健一』シリーズの1冊で解説を担当されていたからだ▼「先生は吉田さんにお会いしたんですか」「うん。その時、吉田さんは『粟津君ねぇ…』と」。残念ながら次の言葉は失念したが、かの英文学者が発した宝石のような語句、それを懐古する仏文学者。なんとも贅沢な一瞬だった。