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片隅抄

2024.04.30

華々しいオープンセレモニーはなかった。ふるさと小川の澄んだ青空か、戦後、命からがら引き揚げた際に目にした海の色か、小川出身の詩人草野心平の作品群を彩った、〝群青色〟した真新しくこじんまりとした駅舎が、そこにあった▼1915(大正4)年に開業し、心平やきょうだい、串田孫一をはじめ心平を慕う文人が利用した、風情漂う木造平屋の駅舎は跡形もなかった。ただホームへと続く地下道に飾られていた心平の詩「故郷の入り口」と旧駅舎の看板のみが、往時を偲ばせていた▼先日、海の見える赤い屋根の木造駅舎を久しぶりに訪れた。駆け出しのころ、見事に咲き誇るサツキの情景を撮影するため何度も通った場所だ。ここでは地域住民たちとJRが連携し、小規模ながら活気溢れるマルシェを昨年12月に始めた▼惜しまれながらも取り壊された小川郷駅と何気に比べ、険しい顔をする自分がいた。ついに、ペンの力は届かなかった。後悔だけが残る。

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