「報道は正確かつ公正でなければならず、記者個人の立場や信条に左右されてはならない」。日本新聞協会による新聞倫理綱領の一節だ。そこには客観報道を貫く矜持がある。しかし時に心揺さぶられる取材に出会う▼有機綿花を栽培する旧知の先輩との縁で、東京の五井平和財団から依頼を受け、東日本大震災・東京電力福島第一原発事故からの復興を学ぶ首都圏の中高生に講義し、被災地を案内する役を得た。この13年にわたって自ら見聞きした話を伝え、彼らのフィールドワークを取材した▼ある高校生の女子生徒が「正直私は放射能などが怖く、ギリギリまで福島に行くのを迷っていた。お話を聞き、とても安心しました」との感想を寄せてくれた。素直にうれしかった▼生徒たちは真摯に被災地に向き合い、幾度も感極まっていた。災禍を自分ごととして、懸命に受け止めようとしていた。こうした思いに応えることも、復興に向けた一つの形だと実感した。
片隅抄