長く記者活動をしていると、不思議な体験や奇妙な縁に繋がることがある▼30年ほど前、死亡ひき逃げ事件に遭遇した。車は被害者が車体の下に挟まっているのを知りながら相当な距離を引きずり、そのまま逃走。一報を受け、その残忍な犯行に憤りながら徹夜で手掛かりを探し続けた▼数日後に容疑者が捕まり事件は一段落。日々の忙しさから事件への関心が薄れかけたころ、落雷で民家が全焼するという、そうはない火災現場に向かった。周辺で聞き込みをしていた際、ふと表札の苗字に目が行った。目の前の女性に水を向けると、なんと事件の被害者の実家。「実は今日〇〇の四十九日なんです」▼つい先日も初対面の80代の女性を取材し、話が出生から家族構成に及んだところで目を丸くした。女性は数年前に亡くなった恩師の姉だった。そう伝えると驚きの表情もつかの間、相好を崩して「弟が引き合わせたのかしら」。奇縁を背景とした原稿には自然と力も入る。
片隅抄