いわき昆虫記
ふるさと自然散策・いわき昆虫記119 ―ミヤマカワトンボ―
文と写真・ 鳥海陽太郎(いわき地域学會会員)
渓流に棲むカワトンボの最大種
四倉町駒込地内の丘陵地を流れる桧川に沿って車を走らせると、1匹の大型のトンボが路面から飛び立ち、上空へ消えた。発生源は樹林の木陰の中の渓流に違いない。早速、河原へ降りてみた。
林から聞こえてくるキビタキのさえずりと、早瀬で鳴くカジカガエルの音色とせせらぎが、涼やかで心地いい。平瀬や淵の水中では、オイカワの群れが悠然と泳いでいた。トンボなどの水生昆虫にとっても快適な生活空間なのだろう。
さっき路上から飛び去ったコオニヤンマらしきトンボの姿は無かったが、水辺の石の上やヨシの葉の上には、翅の色が褐色の大型のカワトンボ科昆虫「ミヤマカワトンボ」がとまっていた。
ミヤマカワトンボは、国内のイトトンボなど前後の翅が同じ形をしたグループ(均翅亜目)の中の最大種で、体長がおよそ7~8㌢もある日本固有種。和名は深山(ミヤマ)に由来しているが、山地から丘陵地まで広く分布している。
雌は翅も体も全身褐色だが、雄の金属光沢をした腹部は、木漏れ日の中で青緑色に輝き、とても美しい。天敵に発見されやすい鮮やかな色彩だが、雌への求愛には重要なサインとして働くのだろう。
雄の縄張りの習性は強く、視界に同種の雄が入ると急発進して追跡し、追い払う。水面の石の上などでは4枚の翅をピタリと閉じてとまっているが、時折翅を開閉させるのも周囲の雄への威嚇行動なのか。褐色の翅の一瞬の羽ばたきを狙って撮影したが、逆光線を受けて赤褐色に見える瞬きも鮮やかで印象的だ。
気が付けば、近くの水辺ではキセキレイが夢中で餌探しをしていた。トンボのヤゴも成虫も捕食の対象なのか。