平の繁華街、白銀町にある古びた雑居ビルに、元気いっぱい接客する飲食店主らの似顔絵が並ぶ巨大壁画がある。平成23年3月の東日本大震災や東京電力福島第一原発事故の被害で、営業できなくなった飲食店主や、被災地を盛り上げようと移住した起業家たちが集まった復興飲食店街「夜明け市場」。
震災からおよそ2年8カ月後に描かれた、平穏を願う市民らの思いが詰まった壁画は、復興の歩みを進めた10年間で色あせ、街に溶け込んでいる。
復興飲食店街は昭和40年代にできた「白銀小路」の空き店舗を活用し、震災から8カ月後の平成23年11月にオープンした。
現在は14店舗が軒を連ね、約40mの通りの両側には2階建てビルが並び、導線の上では黄色いちょうちんがゆらゆらと淡い光を放つ。昭和レトロな雰囲気に酔客が吸い込まれる、市内有数の通りとして多くの観光客や市民らから愛されている。
縦2・6m、横5・7mの壁画を描いたのは、平上平窪の自営業佐藤江利子さん(49)。本業は和裁士・整体師だが、手先の器用さからちりめん細工や絵本の制作など、求められる作品づくりをこなすうちに活躍の幅を広げてきた。
壁画は平成25年11月、夜明け市場の2周年誕生祭のイベントとして運営会社に依頼され、3日間で仕上げた。等身大より大きく描かれた、当時の飲食店主や運営会社スタッフ計15人の似顔絵はみな笑顔だ。
そこかしこにおやじギャグを散りばめている。当時は原発避難者といわき市民の間に、あつれきが生じているとの報道がさかんに伝えられた時期で、佐藤さんは「来たら楽しくなる雰囲気を大事に描いた」という。
久之浜町の店が津波で全壊し、オープン翌月に出店した最古参の魚菜亭店主北郷清治さん(67)は「今も営業を続けていられのは、お客さんのおかげ。絵を見ると、当時の必死だった気持ちやチームワークを思い出し、平穏のありがたさを実感する。これからもできる限り、店を続けていきたい」と話している。
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