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いわき駅前の老舗「市川パン」9月末で閉店 多くのファン別れ惜しむ

 昭和・平成・令和と3時代・88年間にわたり市民のあいだで「市川パン」の愛称で親しまれてきた、JRいわき駅前の老舗パン店「パンとケーキ市川」が9月末で閉店することになった。店を運営してきた株式会社市川(市川圭二代表取締役)=平字田町=の廃業に伴うもので、パンの製造を行ってきた平字旧城跡にある工場も閉め、閉店後は廃業に向けた手続きを進めていくという。
 市川祐三専務取締役(60)は「後継者問題をはじめ、原材料の高騰や取引先の減少……とさまざまな要因が重なり、事業を継承していくことが難しくなった。大型機械の交換時期を迎えるタイミングで決断しました」といい、店には閉店を惜しむファンが足を運んでいる。
 市川パンは創業者・市川祐男さんが1935(昭和10)年に創業した。祐男さんの実家は白河市にある同名の老舗パン店。祐男さんが独立して自分の店を持とうとした際、他県も含む複数の候補地のなかから、いわきを選んだという。当時は炭鉱産業が伸び盛り。駅前は人の往来が多く、活気にあふれてた。
 店を受け継いだ2代目の圭二さん(94)は仕入れ先の製粉会社が開く講習会に参加するなどしながら商品を拡充。おかずとして食べられる総菜パンや菓子パンはランチのお供として定番となった。本店での小売りだけでなく、平地区を中心とする複数の高校で昼食時の訪問販売がはじまり、市役所や病院内の売店にも商品を卸した。
 かつては幼稚園からも大口の注文があり、注文が重なると「午前1時半に起きて仕込みをしなくてはならないほどだった」(祐三さん)という。近年は多くの幼稚園が保育園機能を併せ持つ認定こども園へと移行し、園内で給食を作るようになると、注文は一気にストップした。
 「廃業」を覚悟した最初のきっかけは、通年安定した売り上げがあった市役所内売店が昨年11月に閉店してしまったことだ。高校での販売も、生徒数の減少でかつての売り上げを超えることはなく、現在の製造量は最盛期の4分の1程度にとどまっているという。
 売上の減少に加え、原材料費の高騰にも苦しんだ。さらに、数十年と使ってきた大型機械が交換時期を迎えたことが決定打となった。業者に相談すると部分的な修理や交換はできず、一式購入で1千万円ほどかかることが分かった。「ようやく借金がなくなったのに、ここでまた新たな投資はできません。将来的な事業継承も難しいので、今が引き時と思い、廃業を決断しました」
 子どもからお年寄りまで幅広い世代に受け入れられる庶民的な味わい。顔並みの大きさ、ユニークな形状から「わらじパン」の愛称で親しまれた「デンマークパン」やホイップクリームをはさんだ「UFOパン」、北海道のローカル食にヒントを得た「ちくわパン」……多くの市民に愛された定番商品があり、いまは閉店の噂を聞きつけた人々が思い出の商品を買い求め、別れを惜しんでいる。
 <取材後の9月8日、同社代表取締役・市川圭二さんの訃報に接しました。突然のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます>
 (写真:閉店まであと2週間。最後のパンづくりに励む市川専務)

PR:いわき市北部地域を中心に、児童養護施設、老人保健施設、特別養護老人ホーム、ケアハウスをはじめ、診療所とデイケア、デイサービス、居宅介護支援、訪問介護、訪問リハビリと多種多様な福祉、医療事業を展開。

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