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震災15年 いわき市出身の劇作家・笠木泉さん寄稿「海とわたし」

 東日本大震災の発生から15年に合わせ、いわき民報でエッセイを連載中の劇作家・笠木泉さんが寄稿した。いわき市出身の笠木さんは昨年3月、演劇界の芥川賞と称される「第69回岸田國士戯曲賞」に輝いた。
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 みなさま、こんにちは。月にいちどいわき民報の裏面で「わたしのいわき通信」というエッセイを連載させていただいている劇作家の笠木泉です。今日は「いわき通信」の番外編。「海とわたし」というテーマで少し書かせていただこうと思います。
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 わたしはいわき市の小名浜で生まれましたが、そこから父の仕事の関係で転居を繰り返しており、実はわたし自身いわきに住んだことはありません。父方の実家が海にほど近く(母方の実家は泉です)、夏休みに帰省すると祖父祖母とよく海に散歩に行きました。
 家から歩いて行ける海は、新舞子。このあたりは遊泳禁止で、海の家もありません。だから、いつも静かでした。砂浜も海面もただただ広く、海の先の水平線は少しだけ弧を描いているような気がして「地球が丸いんだな」と感じました。
 右を向くと、灯台が見えます。塩屋埼灯台が静かに佇んでいます。こちらにもずいぶん出向きました。父の運転で塩屋埼灯台下にある売店でお菓子を買った記憶があります。とても穏やかで静かな記憶です。
 わたしの大好きな祖父と祖母がそこには必ずいます。家族皆で海水浴にも行きました。薄磯海岸、豊間海岸。まったく泳げないわたしはもっぱら海の家で買う焼きそば目当て。二人で食べ物を争って弟と喧嘩したことも思い出す。そんなたわいもないことも今思えば特別な時間でした。
 いわきで過ごす夏休みは楽しかった。静かで優しく眩しい記憶。わたしの中で今も生きているわたしだけのささやかな生活の記憶。
しかし、いわきの海について書くということは、あの日、15年前の3月11日、あの日から今も続く長く厳しい時間を振り返るということ。父と母はあの日津波の恐れから高台の中学校に避難しました。
 丘の手前まで迫り来る津波を、避難している大勢のみなさんと一緒に固唾(かたず)を飲んで見ていたそうです。わたしはその時現在も住んでいる横浜にいました。
 スーパーの地下にいました。揺れの大きさに売り場は大混乱になり、出口に人が殺到していました。叫ぶ人がいました。転んだお年寄りの方を助けて、私は急いで自転車で家に帰宅しました。横浜での大きな揺れが実家の父母につながっていると直感したからです。
 テレビのニュースを見て愕然(がくぜん)と、しばらくはとにかくなにか大きなものに祈るしかできませんでした。父母だけでなく、わたしの大切な海の近くに住むみなさんがどうかどうかどうかと。
 祈りながら、しかし多くの方がきっとそうであったように、わたしは圧倒的に無力であると感じました。その後、原発事故という未曾有の「事件」が、福島県の浜通り全体を覆いました。
 それからの日々。実家に帰れば海沿いを埋め尽くす瓦礫(がれき)の中、ガイガーカウンターを持って日々を生きる市民の皆さん。
 ここにある美しい土、砂、緑、海、山、川、畑、動物、そして、一生懸命に生活を全うする福島の皆さん。わたしはやはりどうしたって無力だけど、一生この地を大切にしよう。ここに住んでいた人、ここに住んでいる人、ここに生きる全ての命を、大切にしたい。そう思うようになりました。
 いまも実家に帰ったときは、父母と一緒に海まで散歩に行きます。子供の頃から変わらない海の満ち引きを見ると、どうしても感動してしまう。この海よ。海は数多を奪いもした。しかし、と立ち尽くしてしまう。
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 あの日から15年、時に歯を食いしばって頑張ってきた福島の皆さん、そしてこの地を愛してやまないいわきの皆さん、海を愛する皆さんに、心から敬意を表します。
 昨年「海まで100年」という戯曲を書きました。福島の海まで旅にいく話です。ありがたいことにこの戯曲は第69回岸田國士戯曲賞をいただき、なんと書籍にもなりました。
 わたしが書いた言葉なんてこの新舞子の海の広さからしたら砂のひとつぶにも満たないものですが、日本のどこかの本屋さんでわたしの戯曲を手に取ってくださった方がいて、もしその本編を読んでくれたとしたら、そこには「わたしの海」そして「わたしたちの海」が広がっています。
 福島のみなさんが海と共に頑張っていることが、この15年の日々が、少しでも伝わったら嬉しい。そう思ってこれからもわたしは戯曲を書きます。演劇を続けます。
 (写真:新舞子海岸から望むいわきの海)

PR:いわき市北部地域を中心に、児童養護施設、老人保健施設、特別養護老人ホーム、ケアハウスをはじめ、診療所とデイケア、デイサービス、居宅介護支援、訪問介護、訪問リハビリと多種多様な福祉、医療事業を展開。

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