記者仲間で、よく交わし合う冗談の1つに「原稿より健康」というのがある。自身も、記事書きに難儀し、何時間も机にかじりついていた時に先輩からいわれたことがある▼思うに、これには一理ある。やはり体調が良くないと取材も原稿もおろそかになりがち。頑張ろうと思っても力が出ず、判断力も鈍る。まあ、これは誰にもあてはまるだろう▼また、向こう見ずに突っ走るのみでなく、一度立ち止まりわが身を振り返れという教訓であるようにも思う。体調管理も、仕事のうちに相違ない▼五木寛之の新著『杖ことば』は、人の心を支えることわざに関するエッセーだが、中に著者が言葉を独自に読み解いている個所がいくつかある。例えば「諦める」は、五木氏によれば「明らかに究める」ことであり、それは決して後退ではなく、己を知り、現実を見つめ、それらを積極的に受け入れることにつながるという。「原稿より健康」に相通じる言葉の妙味に触れた思いがした。
片隅抄