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片隅抄

2012.04.23

見る側の心をくんだような美しい桜に、昨春を思い起こしながら癒やされた人は多いだろう。その桜も満開から散り時期へ、季節の移ろいを実感する▼が、市内にはまだ時が止まったままの所も少なくない。津波被災地の平薄磯。撤去された建物跡のあちこちに、色鮮やかなパンジーが咲いている。また、残ったブロック塀や防潮堤には、これも色彩豊かな絵が描かれている。少しでもまちを明るく元気にと願い花を植えた人、絵筆を執った人がいるのだと推察する▼青森県・下北半島の恐山菩提寺の住職代理を務める南直哉氏の新著『恐山』にこんなくだりがある。師事する老僧が氏に語る「人は死ぬと、その人が愛したもののところへ入っていく。だから人は、死者を思い出そうと意識しなくても思い出す」▼薄磯の風景に「故郷も同じだ」と感じた。元の姿がなくなった故郷は、そこを愛した人々の中に入っていく。だから人は、いつまでもそこに思いを寄せるのだと。

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