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片隅抄

2022.03.19

半世紀以上も昔の白黒写真は、梅の花が満開の水戸・偕楽園で撮影した思い出の1枚だ▼厳格で怖かった父の前で、まだ幼い自分がはにかんでいる。肩に置かれた父の手は農作業と土木作業で鍛えられて大きくゴツゴツしていた。母とはよく手をつないでもらったが、残念ながら父と手をつないだ記憶はない▼その父が天寿を全うする前の日、介護を受けながら生活していた施設で会うことができた。老いた手を母と、孫にあたる娘が握って離さなかったのと、この期に及んで照れくさくて最後まで握れなかったのだが、少し後悔している。読者の〝父の手〟の思い出ってどんなだろう▼金曜日連載の「いわき諷詠」で中山雅弘さんがこんな川柳を紹介している。『口重い父の一言だから利き』。父には殴られた記憶もないから、まさにゲンコツより重い一言だった。そして、『箸でなく手で拾いたい母(父)の骨』。この作者だけでなく自分もきっとそんな心境になるだろう。

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