ちょうど1年前、ともに稲作をする同業他社の大先輩に「何を考えているんだ。大馬鹿者」と大いにたしなめられた。口調は厳しかったが、言葉の端々に優しさを感じた▼社会人になり、これまで眠れなくなるほどの不安や悔しさを繰り返し味わったが、今回の挑戦は比べようもない大きな決断だった。とうてい作業なんかできないだろう、無理をするな。今季は先輩たちの配慮から、10年以上続けてきた無農薬の米作りと距離を置くことを決めた▼親戚に稲作農家が多いこともあり、米を買うのは〝まれ〟だったが、食べ盛りもいるので定期的に購入しないといけなくなった。すると意外な発見があった。以前は香りがうま味が、有機農法が一番だと偉そうに語っていたが、流通米も旨い▼我が家には炊飯ジャーがなく毎日、土鍋や圧力鍋で米を炊く。炊き具合は勘と経験だ。米の素性が一番分かる。何を今さら、と言われそうだが、いわき産は米どころに引けを取らない。
片隅抄