「マイナスもプラスに替えて生きた母我も継ぎたし卒寿を歩む」。シニア世代になってから短歌デビューし、人生や何気ない日常のひとコマを歌に詠んできた曙短歌会・渡辺幸代子さん(90)=平=の作品だ。渡辺さんが2018(平成30)年以降の歌を集めて初出版した歌集「卒寿の歩み」が「読みやすく、心にすっと入ってくる」と話題になっている。
渡辺さんは1934(昭和9)年、高知県南国市生まれ。東京都で結婚後、長くいわき市の福島整肢療護園で障がい児の療育指導やリハビリの仕事に携わった。「文学少女だった」という母の気質を受け継いで幼いころから和歌に親しみ、90代になったいまも百人一首をそらんじることができるという。
夫を30代で亡くした後は仕事に子育てに多忙な毎日を送り、実際に歌を詠み始めたのは退職後、70歳を過ぎてから。仲間に誘われて歌会に参加したのがきっかけだった。さらに腕を上げようと通信講座を受講し、2011(平成23)年に曙短歌会に入会した。
同会参与の阿部良全さんやいわき市短歌連盟の水竹圭一さんらの指導を受け、大正~昭和時代の歌人岡山巌が立ち上げた「歌と観照社」や「きびたき短歌会」の歌誌でも作品を発表するようになった。
自費出版した初の歌集では、18年からわずか5年の間に発表した歌の中から400余首を選出した。テーマは春夏秋冬それぞれの季節の印象的な出来事や老い、病のこと、日常生活、ウクライナ戦争、原発事故と幅広い。「家流る友あまたあり水よせて避難遅れし親友は逝く」など東日本台風による水害を歌った作品も。二度にわたる癌など重い人生経験も、平易な表現でわかりやすく、軽やかに歌い上げている。
現在は有料老人ホームきづなに入所し、多くのスタッフに支えられながら、施設での出会いや別れ、日々の出来事を歌う。「何気なく周りを見ていても、歌を作ることで深く感じたり、再発見もできる。意味ある余生を送れている気がします」と語る渡辺さん。「元々下手で難しいことはできないから、観た人が楽しんでくれればいい。欲張らずに毎日笑って生きていきたい」と話している。
「歌ノート駄作並べてこれもよし老いの生き甲斐続けて一首」――渡辺幸代子
歌集は増刷し、税込み1650円で販売している。有料老人ホームきづな=電話(38)5505=まで。
(写真:初の歌集を出版した渡辺さん)
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