「いつかいわきをサッカー王国に」
いわきFCコーチ 渡辺 匠さん
小名浜出身の渡辺さん(39)は、昨季J1を制した川崎フロンターレをはじめ、松本山雅FC、横浜FC、福島ユナイテッドFCなどで活躍。松本山雅時代に東日本大震災を経験し、ふるさとへの思いをより強くした。現役引退後、平成30年にいわきFCを運営する、いわきスポーツクラブへ。翌年からアカデミーディレクター、昨年にはトップチームのコーチに就任。「福島のサッカー熱を少しでも盛り上げたい」と、サッカーを通じた地域の活性化を目指す。
渡辺さんは中学卒後、神奈川県の名門桐光学園高に進学。当時いわき市はサッカーが盛んな環境とは決して言い難かった。「本気でサッカーをやるなら地元に残っていてはいけない」と強い意志でふるさとを飛び出した。
震災時は、長野県松本市内にいた。テレビで被災地の惨状を目にした。ふるさとをより強く再認識する、大きな出来事だった。少しでも福島の力になりたい――。地元に貢献したい、と熱い気持ちを抱いていたが、福島のサッカーは、まだまだ発展途上。そんな中、全国から注目を集めるクラブチームがいわきに誕生した。クラブの理念と自身の〝地元に貢献したい〟との思いがリンクし、現役引退とともにいわきFCのスタッフとして新たな一歩を踏み出すことを決意した。
入社後、2年間は強化スカウトやアカデミーの統括を担当。選手から指導者への転身は簡単ではなかったが、「とにかく選手たちを成長させたい」との思いでがむしゃらになった。試合に出ていない選手や若手の〝個〟に注目し、選手との時間を多く割いた。表情の変化も逃すまいと、細部にまで気を配った。ただ寄り添うだけでなく、時には鋭く短所も伝えられるよう心掛けた。
最終節、ホームのいわきグリーンフィールドには、最多の2451人が駆け付けた。「まさかあの場所で、あの光景がみられるとは想像すらできなかった」。小、中学生時代に汗を流した思い出の場所が、熱狂的な空間に包まれた。いわきのサッカー熱を間近にし、感無量だった。
「たくさんの学びしかなかった」。激動の昨シーズン。指導者の立場だったが、自らも成長を実感した。ただ、まだ道半ばだ。おごらず常に成長を追い求めていきたい――。理想のサッカー王国を創り上げるため、これからも選手たちの背中を押し続ける。